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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)632号 判決 1958年5月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由第一、二点について。

所論は要するに、原審の証拠の取捨、事実認定に対する非難であつて、原判決挙示の証拠によれば、原審の認定は首肯でき、所論の如き採証法則ないし経験則違反の廉は認められない。

同第三点について。

原判決の事実摘示および、その引用の第一審判決の事実摘示によれば、所論原審認定事実は原審において被上告人が主張したものと認められ、該認定事実に所論のような不明な点はなく、かつ、原判決挙示の証拠により認定できないことはないから、原判決に所論の如き民訴一八六条、一八五条違反の違法はない。

同第四点について。

原審の適法に確定した事実によれば、上告人が被上告人に対し、被上告人が将来その保証債務の履行により訴外会社の被上告人に対し負担すべき求償債務を上告人において重畳的に引受け、その支払の責に任ずる旨を約し、その限度を上告人の被上告人に対する別途金一〇万円の債務を加えて金一〇〇万円と協定し、右金一〇〇万円の債務を担保するため本件抵当権を設定することを約したものであるが、右抵当権の設定登記に当り、当事者合意のうえ、上告人が恰も被上告人より金一〇〇万円を借り受け、その債務を担保するため抵当権を設定するが如き旨の抵当権設定登記手続をなしたものであるというのである。然らば当事者は真実抵当権を設定する意思の下に抵当権設定を約したものであつて、本件抵当権設定について所論の如き虚偽表示が存するものではない。しかし、本件被担保債権の大部分は将来成立すべき条件付債権であるのに、恰も上告人が被上告人より金一〇〇万円を借り受けた如きものとして抵当権設定登記手続をなしたことは、この点について事実と登記の間に不一致が存するわけであるが、かかる場合でも当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、この登記を以て当然に無効のものと解すべきものではなく、抵当権設定者は抵当権者に対し該登記が事実に吻合しないことを理由として、その抹消を請求することはできないものと云わねばならない。(所論の判例はいずれも本件に適切でない。)その他原判決に所論民訴法に違反する違法は認められないから、論旨は採るを得ない。

同第五点について。

当事者間の合意によつて、特定の数個の債権を一定金額の限度で担保する一個の抵当権を設定することも、また将来発生の可能性のある条件付債権を担保するため抵当権を設定することも、有効と解すべきであつて、所論は独自の見解に過ぎないものであつて採るを得ない。

同第六点について。

原判決の事実摘示およびその引用の第一審判決事実摘示によれば、所論の原審認定の事実は当事者の主張せざる事実を認定したものでないこと明らかであるから、所論の如く原判決に民訴一八五条、一八六条違反の廉ありとはいい得ない。

同第七点について。

原審が、本件抵当権の被担保債権が第三者との関係でいかなる効力を有するものであるかについて、何も認定しなかつたことは、判文上明らかであり、本件事案の判断にその必要はないのであるから、所論上告人の主張に対し判断を示さなかつたのは、当然であり、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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